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神戸地方裁判所 昭和37年(行)18号 判決

神戸市灘区水道筋四丁目六番地

原告

共立工業株式会社

右代表者代表取締役

前田為雄

右訴訟代理人弁護士

石橋利之

同市同区泉通二丁目

被告

灘税務署長

指定代理人 叶和夫

杉内信義

森下康弘

斎藤義勝

福永三郎

山本礼三

右当事者間の昭和三七年(行)第一八号法人税課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和三六年五月三〇日付でした原告の昭和三四事業年度分法人税につき所得金額を金二六五万六〇〇円とする更正決定を取消す。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、電気器具の販売、電気工事の請負等を業とする会社であるが、昭和三五年五月三一日、被告に対して原告の昭和三四事業年度分の所得金額は金一〇万九、八五一円であると算定してその旨の申告をした。

二、ところが、被告は、昭和三六年五月三〇日原告の右申告にかかる所得金額には誤りがあるとして、これを金二六五万六〇〇円と更正決定(以下本件更正決定という)をした。

三、そこで、原告はこれを不当として同年六月一日被告に対して再調査の請求をした。しかし、被告は右の請求に対し所定の期間内に何の決定もしなかつたので、原告は同年八月二一日訴外大阪国税局長に対して右決定の審査請求をした。

四、しかるに、大阪国税局長は、昭和三六年一二月一五日付で右審査請求を棄却する旨の決定(以下本件審査決定という)をしたとのことであつたが、原告には右審査決定の通知書は送達されなかつた。そして原告はその後大阪国税局に右の審査の結果を問合せたところ、やうやく昭和三七年一〇月二一日に本件審査決定がなされたことを了知するに至つた。

五、しかしながら、被告のした本件更正決定は次の理由により違法であり、取消されるべき筋合のものである。すなわち

被告は、原告が昭和三四年九月二日原告会社の代表者である訴外前田為雄との間に、原告所有の神戸市灘区水道筋三丁目一二番の九宅地一二坪九合三勾(当時の価格金二五五万円)(以下単に(1)の土地という)と同訴外人所有の同市同区水道筋四丁目六番の三宅地三七坪八合九勾(当時の価格金三〇〇万円)(以下単に(2)の土地という)とを、両物件の差額金四五万円を原告から同訴外人に支払うと定め、そのほかの条件を付加して、これを互いに交換する旨の契約を締結し、これを昭和三五年一月二九日履行したことがあつたのをとらえて、これが交換契約たることを否認し、売買契約と誤認して右交換地価格金二五五万円を売買価格としてこれを原告の所得金額に算入し(2)の土地と(1)の土地との価格の差額金四五万円を益金としてその全額につき当該事業年度の法人税賦課の対象にくり入れたのは違法である。

しかし、右の契約は真実交換契約なのである。従つて原告はその申告所得金額にも右交換地価格を計上しなかつたのである。そもそも、原告は前記訴外人に譲渡した(1)の土地は既に従前の事業年度から一年以上にわたつてこれを所有していたものであり、また交換により取得した(2)の土地を(1)の土地と同じ用途に供していたことも明らかであるから、(1)の土地の譲渡直前の帳簿価格金二五五万円と多少の差額はあつてもほぼこれに見合う金三〇〇万円を(2)の土地の価額としてこれを財産目録に圧縮して掲記した次第である。してみると、原告には実質的には何の損得もなく、従つて所得となる道理はない。ちなみに当時の法人税法施行規則第一三条の六、所得税法施行規則第九条の八は右のような場合にはこれを法人税の賦課の対象としない趣旨を規定しているのである。思うに、被告の本件更正決定は(イ)、まず原告主張の契約は売買契約と認むべきであるから法人税法施行規則第一三条の六は適用されない、(ロ)、またこれが仮りに交換であるとしても(2)の土地は交換のために特に原告が取得したものであるから法人税法上では同規則の特例は認めない取扱いである。という二点を理由としているようである。しかし、被告は交換の手段又は条件と交換自体とを混同している。

よつて、本件更正決定の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告の本案前の答弁に対し、

一、法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正以前のもの、以下単に法という)第三七条第二項所定の出訴期間は審査決定の通知が名宛人に到達しその内容が了知された日を基準として起算されるべきところ、原告は前記の如く被告主張の項には大阪国税局長から本件審査決定の通知書を受領したことはなく、昭和三七年一〇月二一日同局に対する問合せの結果その回答によつてはじめて本件審査決定の内容を了知したのであるから、本件の訴の出訴期間は前同日より進行すべきものである。従つて原告の本件訴はその出訴期間の範囲内である同年一二月一四日に提起された適法の訴である。

二、また仮りに本件審査決定通知書が被告主張の頃に原告に到達したとしても、(a)、本件審査決定通知書には「取引の内容は普通の売買によるものと認められますので交換の特例の適用はありません」と記載してあるだけであるから、法第三五条第五項に定めらられた処分の理由付記としては不備である。(b) 仮りにそうでないとしても、本件審査決定通知書には決定者たる大阪国税局長の職印が押捺されておらない。以上の理由により右通知書は無効であり、従つてこれが原告に対する到達もまた無効であつて、結局本件審査決定通知書は原告に到達しなかつたと同視すべき状態にある。してみると、未だ原告の本件訴は出訴期間を徒過したことにはならないと述べ、立証として、甲第一号証を提出し、証人前田茂一の証言を援用し、乙第一号証の一、二の成立を認める、その余の乙号各証の成立は知らないと述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由として、法人税の審査請求の目的となる処分の取消を求める訴は法第三七条第二項により審査の決定の通知を受けた日から三箇月以内に提起しなければならないところ、大阪国税局長は昭和三六年一二月一五日付で原告に対し、本件審査決定をなし、即日その通知書を大阪東郵便局大手前分室同日付書留第八八五号により名宛人たる原告の住所にその所在地を誤記することもなく発送したが、右郵便物は特段の事情のないかぎり通常の送付に要する期間が経過したときに原告に到達したと認められるので、その頃より出訴期間が進行し、従つてその時から三箇月以内に出訴すべきであるのに、本件訴は出訴期間徒過後であること明らかな昭和三七年一二月一四日に提起されたものであるから不適法として却下されるべきであると述べ、原告のこの点に関する仮定主張に対しては、本件審査決定通知書はあくまでも有効である。そして右書面が無効であることを理由として該書面の到達という「事実」の存在を否定することはできない。原告は本件訴の出訴期間の徒過を塗抹する手段として原告主張のような問合せを大阪国税局になしたと考えるほかはないと述べ、立証として、乙第一号証の一、二、同第二号証の一、二、同第三号証を提出し、証人高野文助の証言を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

よつて、まず原告の本件訴の提起は出訴期間を徒過したものであるか否かにつき判断するのに、成立に争いのない乙第一号証の一、二および証人高野文助の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、二、同第三号証並びに同証言によると、大阪国税局長は、昭和三六年一二月一五日付で原告から提出された昭和三四事業年度分の法人税の更正の処分に対する審査の請求を棄却する旨の決定をしたところ、同局協議団本部庶務係であつた高野文助が同日付右審査決定通知書を同局長印を押捺して作成したうえ、その発送を同局文書係に依頼し、同日同係はこれを大阪市東区所在の大阪東郵便局大手前分室より普通郵便ではなく、書留郵便で名宛人たる原告の肩書住所にその所在地を誤記することもなく発送したこと、及び右郵便物は同局には返戻されておらないことが認められる。そうして大阪市より神戸市へ送られる郵便物は当時通常の場合遅くとも三日を出でずして名宛人に到達していることは当裁判所に顕著な事実であるところ、他に右事実の障害となるべき特段の事情の存在することの立証のない本件においては、本件通知書は遅くとも同年同月一七日頃には原告に到達しているものと推認するに難くない、右認定に反する証人前田茂一の証言は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。そこで、本件審査決定通知書の瑕疵を理由として該書面の原告に対する到達の効力は生じえない、との原告の主張について考えてみるのに、右通知書の当否はむしろ該書面が名宛人に到達したことを前提として論ずべきことであるから、これをもつて右通知書の到達という事実を否定する根拠とならないことは明らかであるので原告の右主張は主張自体失当としてこれを排斥すべきものである。

してみれば、原告の本件訴の出訴期間は本件審査決定通知書の到達した日頃の翌日である昭和三六年一二月一八日頃から起算すべきところ、本件訴は同日より三箇月を超えた昭和三七年一二月一四日提起されたことは一件記録に徴し明らかであるから、原告の本件訴は不適法であつて却下を免れないものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田常雄 裁判官 村田晃 裁判官 磯辺衛)

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